刀水歴史全書89
ある反戦ベトナム帰還兵の回想 ある反戦
ベトナム帰還兵の回想

W.D.エアハート著
白井洋子訳


定価: 本体3500円+税
2015年5月刊
ISBN978-4-88708-420-9
四六判 480頁



在庫あり

原書:
Passing Time: Memoir of a Vietnam Veteran Against the War
by W.D.Ehrhart
○ 本書は小説ではないが、そのようにもお読みいただけよう。話の流れと複雑な出来事を分りやすくするためという場合を除いて、不正確なところがあるとすれば、それは記憶上の、あるいは受け止め方での誤解にもとづくものであり、故意に事実を歪めたからではない。会話部分は何年も昔の記憶から再現したものであるが、できるだけ正確を期すように努めた。本書に登場する人物とその家族については、その方々のプライバシー保護のために、実名の使用を避けている。(著者まえがきより)

○ W.D.エアハートは、ベトナム戦争が生んだ傑出した詩人のひとりとして、またベトナム戦争詩編纂の第一人者として、もっともよく知られている人物ではないだろうか。1961年以来、私は、公立私立を問わずアメリカの大学で何十ものコースを教え、そこで何百冊もの文献を読ませてきたが、そのなかでも、彼の自伝的回想記Passing Time [英語の原題]ほど強烈なインパクトをもった本にこれまで出逢ったことはなかった。
(H.ブルース・フランクリン巻頭解説より)

○ 本書は、詩人で元米国海兵隊員W.D.エアハートが、ベトナム戦争の従軍体験と、帰還して後に反戦平和を訴える闘士となるまでを綴った自伝的回想の記録三部作の第二作目、『パッシング・タイム』 (原題Passing Time: Memoire of a Vietnam Veteran Against the War 1986年)の全訳である。(訳者あとがきより)
【目  次】
W.D.エアハート著『ある反戦ベトナム帰還兵の回想』に寄せて    
                           H・ブルース・フランクリン

まえがき
1. エンデバー号 ロジャーと 1974年
2. フィラデルフィア スワスモア大学へ 1969年9月
3. ロジャーに「ベトナム」を語る
4. 大学図書館 マイク・モリスとの出会い 1969年 秋学期
5. 水中バレエの一員に
6. 反戦集会への誘いを断る
7. スキー場での醜態
8. サンフランシスコ マイクとの再会(1) 1973年
9. ベトナム はじめてのカウンティ・フェア 1967年2月
10.ミライ(ソンミ)事件を訊かれて
11.フィリピン 二度目の海外派遣 1968年
12.春休みのフロリダ行き 1970年
13.ベトナム 闇夜の戦闘 友の死
14.フラタニティ入会 1970年5月
15.エンデバー号 はじめての機関紙体験 1973年
16.カンボジア侵攻ニュース 1970年4月
17.ケント州立大学事件 1970年5月
18.反戦学生集会で発言
19.ロータリークラブでのスピーチ
20.帰還 サンフランシスコ空港で 1968年3月
21.エンデバー号 三重残業
22.新入生歓迎パーティ 1970年9月
23.ベトナム「パフ・ザ・マジック・ドラゴン」
24.学寮でのバカ騒ぎ
25.ベトナム 迫撃砲の恐怖
26.カリフォルニアへ クリスマス休暇
27.ベトナム ディア・ジョン・レター
28.カリフォルニア 空軍将校とのクリスマス・パーティ
29.エンデバー号 嵐の中のコロンビア河口横断
30.水泳部コーチ ジェイミー・アダムズ
31.ベトナム 川岸での銃撃戦
32.脱走寸前 香港での休養休暇
33.ベトナム 寺院を破壊する
34.学生食堂フルムーン騒ぎ
35.ワシントンの反戦集会へ 1971年4月
36.「ベトナム帰り」酒場での一件
37.『国防総省白書』 1971年6月
38.ロジャーに語るもう一つのアメリカ史
39.ベトナム 本物のクリスマスツリー
40.オレゴン州ローズバーグ ゲリー・グリフィスとの再会 1971年夏
41.アムクア川でのキャンプ
42.ベトナム 通常パトロール
43.予備役復帰への誘惑 1971年秋
44.三年目の最初の学期末 1972年1月
45.ニクソン訪中 1972年2月
46.戦場の悪夢
47.ジェイミー倒れる
48.エンデバー号 詩が本に載る
49.ニクソン演説 1972年5月
50.ひどくなる悪夢
51.射撃指導員のアルバイトを断る 1972年6月
52.「ゲインズビル・エイト」と反戦ベトナム帰還兵の会 1972年9月
53.ニクソンを弾劾しろ!
54.詩の朗読会
55.パリ和平会談調印
56.「旅路の果て」
57.仕事探し 船に乗りたい 1973年夏
58.サンフランシスコ マイクとの再会(2)
59.エンデバー号 ロジャーと 1974年

訳者あとがき
【書  評】
『史学雑誌』5月号「2015年の歴史学界―回顧と展望」

[アメリカ(北アメリカ)]p.397

核兵器や戦争がもたらす暴力は、多くの人間に甚大な被害を与える。(略)「暴力と残虐と蛮行の限りをつくした」ベトナム戦争がベトナム人やアメリカ人に与えた影響に関しては、ベトナム戦争中に米兵が犯した戦争犯罪や、ベトナムが先端軍事テクノロジーの実験場とされた実態を、公文書や証言から丹念に再現したニック・タース(布施由紀子訳)の『動くものは全て殺せ』(みすず書房)、タースの著書に戦争の狂気に巻き込まれたアメリカ人兵士の一人として登場するW・D・エアハート(白井洋子訳)『ある反戦ベトナム帰還兵の回想』(刀水書房)に詳しい。


『図書新聞』 (2015.12.19)
「15年下半期読書アンケート」より
詩人として元米国海兵隊員という経歴をもつエアハートが1989年に刊行した自伝的回想は、あたかも小説のごとき臨場感に満ちた一冊。まだPTSDなる概念も普及しておらず帰還兵の処遇もいい加減だったニクソン政権期の混沌が伝わってくる。本邦ベトナム戦争研究の第一人者による翻訳も流麗  (評者:巽 孝之)
【著者紹介】

W.D.エアハート
 1948年に米国ペンシルベニア州西部のロアリング・スプリングで生まれ、少年時代から海兵隊入隊までをフィラデルフィアから40マイルほど北にある町パーカシーで過ごした。高校卒業と同時に反対する両親を説得して17歳で海兵隊に入隊し、新兵訓練直後の1967年1月にベトナムに派遣された。1968年、テト(旧正月)攻勢によりフエで負傷し、帰還。その後、フィリピンと日本(岩国、沖縄)に派遣され、1972年4月に最終軍歴二等軍曹として名誉除隊となった。1969年9月にフィラデルフィア郊外のスワスモア大学に入学、英文学学士号を、その後イリノイ大学(シカゴ・サークル)から修士号、ウェールズ大学(スウォンジー校)から博士号を取得している。
 1972年刊行のベトナム帰還兵の詩集Winning Hearts and Minds: War Poems by Vietnam Veteransにはじめて自作の詩8篇が掲載され、それ以後新聞や雑誌に詩が発表されるようになり、これまでに単著による詩集9冊、詩集編纂が共同編纂2冊、単独編纂2冊、回想記三部作を含めエッセイ・評論集8冊の著作がある。その詩はヨーロッパ、中南米、アジア諸国で翻訳されている。
 現在、詩作・著作活動と共に、フィラデルフィア郊外にある私立男子校ハバフォード・スクールで英語と歴史を教える事に情熱を注いでいる

訳者紹介
白井洋子 しらいようこ
日本女子大学文学部卒業,米国ペンシルベニア大学大学院博士課程修了[歴史 Ph.D.]。東京国際大学教授を経て,現在,日本女子大学文学部教授
著書:『ベトナム戦争のアメリカ―もう一つのアメリカ史』(刀水書房,2006)
論文:「軍事主義とジェンダー―「ベトナム」以後の米国軍隊と女性兵士」加藤千香子/細谷実編著『ジェンダー史叢書 5』(明石書店,2009);“W. D. Ehrhart and Chimei Hamada: War Memories of a Poet and of a Print Artist,”Jean-Jaques Malo, ed. The Last Time I Dreamed About the War: Essays on the Life and Writings of W. D. Ehrhart (Jefferson, N.C.: McFarland & Company, 2014);「戦場の記憶,兵士の眼差し―浜田知明とW・D・エアハートの作品から」『日本女子大学 紀要 文学部』64号(2015),など多数
訳書:『インディアンに囚われた白人女性の物語』(刀水書房,1996);『アメリカの歴史 1 新世界への挑戦』(メアリー・ベス・ノートン他著/戸田徹子と共訳 三省堂,1996),など多数
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