人間科学叢書40 | |
貧乏貴族と金持貴族 M.L.ブッシュ著/ 永井三明監訳/和栗 了・和栗珠里訳 定価:4000円+税 2005年12月刊 ISBN4-88708-308-4 A5判 294頁 在庫あり |
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「貴族社会の本質的特性は“多様性”だった!」 貴族といえば,広大な所領で沢山の小作人を使うというのが普通のイメージだが,平民と同じに農夫・職人等で生計を立てる貧乏な貴族も沢山いた。古い家系・新しい家系,都市に住む貴族・田舎に住む貴族など,さまざまな貴族を描き出す。その上で,「この多様な貴族たちを一つの階級として維持させたものは何だったのか」という問いを持ちながら中世から近代まで,東欧・西欧・北欧・南欧と時空間を縦横に駆け巡り,議論する。2年前に評判になった弊社『ヨーロッパの貴族』の続編として |
【主要目次】 | ||
序 第1章 貴族の多様性 第2章 貴族杜会の規模 1 貴族の人口密度の違い 2 貴族人口の多い杜会 3 小規模の貴族杜会 4 貴族規模の拡大と縮小 第3章 貴族杜会の構造 1 定式化された貴族の格付け 2 定式化されない格差 3 結束と対立 第4章 貴族杜会の構成上の変化 1 貴族位の獲得 (a)騎士身分と騎乗従軍 (b)特許状 (C)官 職 (d〕土地所有 (e)詐 称 (f)結 婚 (g)新貴族の増加率 2 貴族階級からの追放 (a)地位失墜 (b)義務の不履行 (C)反逆罪と重罪による地位の剥奪 (d)異階級間結婚による貴族位の喪失 (e)貴族位の再定義による地位の喪失 3 貴族位の放棄 4 家の消減 5 家系の交替 (a)家の存続と増殖 (b)杜会経済上の影響 |
第5章 行動と財産 1 貴族の理想 2 貧困貴族の行動 (a)貴族人口の多い地域 (b)貴族人口の多くない地域 3 富裕貴族の行動 (a)農業経営 (b)商 業 (C)加工業と製造業 (d)鉱 業 (e)金融業 第6章 居住習慣 1 都市の貴族と田舎の貴族 2 都市居住 3 田舎での居住 4 居住習慣の多様性 第7章 結 論 訳 註 訳者あとがき 参考文献 |
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【前書き】 | ||
独立以来,貴族制度を具えることのなかったアメリカ合衆国,あるいは敗戦によって貴族制度の全面廃止にいたった我が国では,貴族制度に対する関心は,単なる好奇心以上のものを出ることがないのは当然である。 他方,フランス革命以後,貴族階級にとって代わって市民階級が歴史の前面におどり出てきたヨーロッパ諸国家では,濃淡の差こそあるものの,現在でも貴族階級の実態をめぐっていくばくかの関心を失うことはない。本書の成立の基礎にはこの事実が横たわっている。 いうまでもなくヨーロッパ諸国における貴族制度の成立は,支配者による気まぐれの恣意や単一の歴史上の事件に誘発されるものではない。むしろこの階級の成立とは各地域,各国家それぞれのお互いに複雑に入りくんだ地理的・歴史的な事情の中で,時間の推移とともに沈殿し自然発酵してきた濃密な澱のようなものである。このことからしても,ヨーロッパ全体の貴族の制度や実態を,単一の共通項で括ることがいかに無謀であるかが理解されるであろう。 そして又,諸国家にあって,王朝の交代や外敵の侵入による所領の喪失,自然災害などによる貴族の貧窮化は,しごく当然のように繰り返される現象だった。権力と富との維持は,貴族階級にとって不変のシンボルではなかったのである。 新しく生まれ出るもの,生きつづけるもの,逆に消滅するものの中に見られる貴族家系の多様性は,むしろこの階級に見られる本質的な姿ではないだろうか。 したがって貴族階級の生産手段や生活様式は,彼らをとりまく環境にしたがって変容し多種多様化していき,貧富格差はいっそうの拡大を見ることとなる。本書で紹介されている都市に住む者と田舎に居住する者,貴族らしい貴族と市民の職業をなりわいとする貴族,これこそ貴族社会のあるべき姿なのである。 貴族らしい貴族のイメージは,むしろわれわれの理解の中で旧くから定着しているが,本書で貧乏貴族と呼ばれている貴族は決して落ちこぼれやはみ出し的な存在なのではなく,貴族階級が本来的に抱える特徴であり,構造的な特性にほかならないのである。 本書にあって,原題 "Rich Noble, Poor Noble" とあるのを『貧乏貴族と金持貴族』と順序を逆にして訳出したのは,上述の印象を表現したかったからである。 永井三明 |
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