研究書・論文 
前近代エジプトにおけるワクフ経営のダイナミズム 前近代エジプトにおける
ワクフ経営のダイナミズム

法学説と現実

久保亮輔著

定価: 本体5,200円+税
2024年2月刊
ISBN978-4-88708-485-8
A5 270頁

在庫あり
現実的問題を契機とするイスラム法の創造的書換えのプロセス。それを跡づけた法学書。その経緯を追求する!

ワクフ(寄進)をつうじて実現することが期待されたのは成長や発展ではなく,社会の安定と寄進者の安寧であり,そこで資本蓄積と長期経営は目指された。ただ,それはあくまでイスラム法により基礎づけられた理念的な次元での話であって,実態としては,ワクフの逓増と物件の経年劣化が同時進行したことで多くの不動産はその資産価値が下がることなった。それでも,人びとはなんとかしてイスラム法に沿うかたちでワクフの収益性を維持・回復し,そこから収益を回収することに努めた結果,ワクフが不動産の流動性を阻害することは避けられたが,様ざまな係争が生じた。法学者はこれに対処すべく,古典法学の再解釈をつうじてイスラム法の刷新に努めた結果,新たな規定が根づきワクフ経営の手法が多様化した。こうした現実的問題を契機とするイスラム法の創造的書換えがワクフ経営のダイナミズムを生み,そのプロセスを跡づけることを可能にするのが法学書なのである。
【略目次】

 序章 前近代イスラム社会における経済基盤―なぜいまワクフなのか
第Ⅰ部 ワクフの法理をめぐる法学者の見解―理論篇
 第一章 ワクフをめぐる所有権の問題
 第二章 賃貸借契約をめぐる慣行とその変容
第Ⅱ部 ワクフの設立,経営,廃業―実態篇
 第三章 エジプトにおけるワクフの設立と経営
 第四章 マムルーク朝における医師の財産と寄進
 第五章 イスティブダールをめぐる学説と現実の相克
 第六章 ワクフと債権債務関係
 終章
【著者紹介】
久保亮輔 (くぼ りょうすけ)
1990年福岡県北九州市生まれ。2022年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。一橋大学大学院経済学研究科特任講師を経て、現在一橋大学大学院経済学研究科フェロー、法政大学大原社会問題研究所兼任研究員、早稲田大学総合人文科学研究センター招聘研究員、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー。

主要著作:
“Jewish Physicians’ Waqf as a Strategy for Survival and Asset Management in Mamluk Cairo”(Mediterranean World XXV, 2021)「15–16世紀エジプトのイスティブダールをめぐる学説と現実の相克――ハナフィー派法学者の所論に立脚して」(『オリエント』第64巻第1号,2021年)「ワクフと経済発展――ティムール・クランの『長い分岐』論をめぐって」(『一橋経済学』第13巻第1号,2022年)
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