研究書・論文 
国制史は躍動する 国制史は躍動する
ヨーロッパとロシアの対話


池田嘉郎・草野佳矢子編


定価: 本体5,000円+税
2015年11月刊
ISBN978-4-88708-425-4
A5 370頁

在庫あり

*日本のロシア史研究を代表する石井規衛の下で薫陶を受けた9人が,ヨーロッパとロシアの「広域世界・社会と制度・エリート」の3テーマで,国制史という大きな枠組みに新たな貢献を目指す挑戦的論集

・・・国制史の優れた特徴を,もう一点指摘しておきたい。個々の史料・事実の分析を基盤としつつも,それとともに何らかの大きな見取り図を提起することが,国制史研究には必須の作業なのである。実証に基づきつつも,大胆に議論を提起することは,私たちが過去,また現在についての理解を深める上で,今日切実に必要とされていることなのではないだろうか。国制史研究において私たちがなさねばならないこと,またなしうることは,極めて大きいのである(序論より)。
【略目次】
序 論 国制史の魅力―ヨーロッパとロシア                   池田嘉郎
第1章 ソヴィエト・ロシアの国制史家 石井規衛                 池田嘉郎

  T 広域世界
第2章 近世ドイツ帝国裁判所をめぐる研究動向
      −法による平和のヴァリエイション                   渋谷 聡
第3章 中近世スウェーデンの対ロシア政治
      −バルト海と北極海の支配をめぐって                 根本 聡
第4章 ロシア帝国の「宗派工学」にみる帝国統治のパラダイム 
                                              青島陽子
  U 社会と制度
第5章 内務省とゼムストヴォ
      −1902年家畜疫病対策法をめぐって                 草野佳矢子
第6章 帝政末期ロシアの官僚と出版
      −ヴァシーリー・クリヴェンコを事例として               巽 由樹子
第7章 ロシア革命における共和制の探求                    池田嘉郎

  V エリート
第8章 ブルゴーニュ公国の解体−その歴史的位相              中堀博司
第9章 ピョートル後のロシアにおける地方行政官人事
      −改革期の国制を担うエリート                     田中良英
第10章 ソ連共産党第20回大会再考
      −1956年7月16日付中央委員会非公開書簡に注目して      松戸清裕
【書  評】
『史学雑誌』5月号「2015年の歴史学界―回顧と展望」

[ヨーロッパ(中世―西欧・南欧)]pp.322〜323

中世後期について。(略)中堀博司「ブルゴーニュ公国の解体」(池田嘉郎・草野佳矢子編『国制史は躍動する』刀水書房)は、ブルゴーニュ国家の歴史的位相をめぐって、ヴァロワ家最後の公の出生、入市、即位などの諸儀礼を検討し、断絶と連続の両側面からこの諸侯国家の本来あるべきさまについて論じている。

[ヨーロッパ(中世―ロシア・ビザンツ)]p.335

『国制史は躍動する』の一篇、根本聡「中近世スウェーデンの対ロシア政治」は、一六世紀から一七世紀前半のスウェーデンの東方政策を、ヴァイキング期以降重視されたロシアにいたる商業路の統制から読み解く。

[ヨーロッパ(近代―ドイツ・スイス・ネーデルランド)]pp.352〜353

近世の帝国諸制度に関する論文としては、渋谷聡「近世ドイツ帝国裁判所をめぐる研究動行」(池田嘉郎・草野佳矢子編『国制史は躍動する』刀水書房)が興味深い。同論文は、「領邦や都市の臣民(都市民・農民)のための上訴審裁判所」としての機能に注目が集まっている《近世の帝国裁判所》に関する研究動向を論じたものである。近年のドイツ近世史研究では、身分制的(等族的)国制への公式の参加資格を有していない《領邦・都市の臣民》が様々なコミュニケーション回路を介して《領邦や都市の支配》に影響を及ぼし、《法的な権利主張》を行っていた事実に光が当てられつつある。前述の小林論文もそうした問題関心に基づくものであるが、渋谷論文では、一八世紀の帝国都市において市参事会の判決を不服とする都市民が「帝国裁判所への上訴」を行うケースが増加していたこと、さらにそうした訴訟を論評する現地の新聞・印刷物とその読者層によって創出される「公論」が判決の行方を左右する要因となっていたことが指摘され、こうした事象に関する近年の研究動向や研究方法論が紹介されている。

[ヨーロッパ(近代―ロシア・東欧・北欧)]pp.358〜361

概して、昨年の研究は二つの傾向を有した。@国家・政体研究、A「国民の社会史」研究である。
(略)画期的な提言や発見は古谷や小山にとどまらない。両者が近世を軸に時系列の国家論を検証するのに対して、池田嘉郎「国制史の魅力」(『国制史は躍動する』)は、ブルンナーを援用しつつ、西欧と非西欧という空間的共時性の中でヨーロッパ文明の内部構造の総体をロシア国制から捉えようとする。しかし、池田のこの共時的な慧眼は、「ソヴィエト・ロシアの国制史家 石井規衛」(同)及び「ロシア革命における共和制の探求」(同)において社団国家論と名望家国家論の文脈を踏まえつつ、国家と社会の対置が成立しない秩序の総体としてロシア帝国史とソ連史を時系列で見通そうとする際に、殊更異彩を放つ。この時空を跨ぐ視点は、同著共編者の草野佳矢子「内務省とゼムストヴォ」(同)にも共有される。二〇世紀初頭ロシアの内務省がゼムストヴォとの連携を模索する状況は、国家と社会の区別を伴わないロシア国制の基本的特徴を浮き彫りにする。
一方、上記の古谷・小山の国家論及び池田・草野の国制論を橋渡ししうるような研究も現れた。田中良英「ピョートル後のロシアにおける地方行政官人事」(同)は、総じて一八世紀前半ロシアの地方行政官の地縁制の弱さ、君主との親密な接合を解明するが、だとするならば、読者の次の関心は行政官と現地社会との接合の様態となる。つまり、この解明こそウェーバーの官僚制支配類型を相対化し、近世ロシアの礫岩国家性を解明しうるのではないか。(略)
国家と社会の関係を官僚の出版活動から考察する巽由樹子「帝政末期ロシアの官僚と出版」(『国制史は躍動する』)は、国制史研究に新風を吹き込む研究といえる。(略)
同じく青島陽子「ロシア帝国の「宗派工学」にみる帝国統治のパラダイム」(『国制史は躍動する』)は、多民族帝国ロシアの西部地域を例に、宗派政策という統治工学から宗派編成を軸に当地域のエトノス関係を分析する。(略)
さて、上記@A以外では、B経済史研究の復権及びC軍事史研究の萌芽という特徴が見られた。Bでは、根本聡「中近世スウェーデンの対ロシア政治」(『国制史は躍動する』)、同「近世スェーデンの都市計画と商業世界」(『北海・バルト海の商業政策』)が近世スウェーデンの中央集権化をバルト海商業政策から考察した。

[ヨーロッパ(現代ーロシア・東欧・北欧)]pp.386〜387

ロシア革命では、池田嘉郎「ロシア革命における共和制の探求」(池田嘉郎・草野佳矢子編『国制史は躍動する』刀水書房)が臨時政府下での間接民主主義の構想に着目する。
冷戦期のソ連研究は、翌年にロシア革命一〇〇周年を控えてか低調。その中で松戸清裕「ソ連共産党第二〇回大会再考」(同)は、スターリン批判以外のフルシチョフ秘密報告の内容に注目し、ソ連指導者の危機感を炙り出す。
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