研究書・論文 
戦争の記憶とイギリス帝国 戦争の記憶と
イギリス帝国

オーストラリア、カナダにおける
植民地ナショナリズム


津田博司著


定価: 本体4900円+税
2012年7月刊
ISBN978-4-88708-404-9
A5 228頁

在庫あり

*かつてイギリス帝国の紐帯を支えていた「記憶の空間」の解体が明らかに!!
*多文化主義社会における「戦争の記憶」の変容を検証した、画期的な帝国史研究
☆第一次・第二次世界大戦後のオーストラリアとカナダで、人びとが戦争をどのように「記憶」
  してきたか、「戦争記念日」を手掛かりに読み解く

【序論から】
「……日本におけるイギリス帝国史研究において、オーストラリアおよびカナダの両ドミニオン(白人自治植民地)は、帝国支配を支える重要なパートナーとしてしばしば言及される。しかし、第二次世界大戦および脱植民地化以降の時代については、「帝国史」という研究分野の性格上、先行研究の蓄積が少ない。また、歴史学以外の分野を含む「オーストラリア(カナダ)研究」では多文化主義導入後の社会に研究者の関心が集中し、植民地時代から二つの世界大戦を経て多文化主義化に至るまでの両国の歴史は、体系的に分析されていない。最も重要なはずの帝国主義から多文化主義への転換期は、研究史上の「空白」として、明確な歴史像が示されないままの状態にある。本書はこうした課題を解決するため、まさに帝国主義時代の遺産である二つの世界大戦が両国で記憶された過程を検証する。対象とする時代については、帝国への帰属意識がひろく共有された大戦間期から第二次世界大戦後に加えて、脱植民地化のなかで既存のアイデンティティが拠り所を失い、新たなシンボルに基づくナショナリズムが模索される1960・70年代を射程に入れる。……」
「……本書ではむしろ、イギリス本国とオーストラリア(あるいはカナダ)が戦争の記憶を媒介として結びつけられる構造を明らかにした上で、脱植民地化を志向するナショナリズムが戦争の記憶の文脈を独占する過程を検討する。……」
【内容紹介】
略 目 次

序論 イギリス帝国の紐帯と二つの世界大戦
第1部 大戦間期における戦没者追悼と「記憶の空間」
 第1章 イギリス本国―休戦記念日の成立
 第2章 カナダ―「高貴なる死」の記憶
 第3章 オーストラリア―アンザック神話の形成
第2部 第二次世界大戦と「ブリティッシュネス」の拡散
 第1章 イギリス本国―平和主義の進展と新たな大戦
 第2章 オーストラリア―継続するアンザックの伝統
 第3章 カナダ―カナダ国旗をめぐる論争とブリティッシュネス
第3部 脱植民地化と「新しいナショナリズム」
 第1章 カナダ―脱植民地化のなかの「大国旗論争」
 第2章 オーストラリア―アンザック・デイの脱植民地化
結論 帝国の終焉と多文化主義化する戦争の記憶
【書 評】

『図書新聞』 2012.10.6より

(前略)本書は、カナダとオーストラリア、二つの白人自治植民地の側から「戦争の記憶」に焦点をあてて、「帝国意識」の構築と変容を論じる。本論は三部構成をとる。第一部では、第一次大戦後イギリス本国で制定された休戦記念日がふたつの自治領植民地に普及される中で、戦没者追悼のための「記憶の空間」が作り出されることが語られる。第二部では、これまでの理解と異なり、第二次大戦後の平和主義の進展の中でも、アンザックの伝統や国旗論争を通じて、両国でブリテッシュネスが「拡散」したことが論じられる。第三部は、1960〜70年代を対象としつつ、カナダの「大国旗論争」の結末、オーストラリアでヴェトナム戦争期に進行するアンザック・デイの変容を分析する。脱植民地化過程における「新しいナショナリズム」が、「戦争の記憶」を多文化主義の文脈の中に「横領」し、「読み替え」ることで、自己の正当性を主張している様子が明らかにされる。こうして、「帝国の総力戦」としての「戦争の記憶」が、歴史の局面に応じて転形しつつ、国境を越えたアイデンティティづくりに貢献したことが強調される。(中略)三国の文書館を踏査し、みずみずしい感覚で発見した言説を紡ぎながら、著者は独自の図柄のタペストリーを織り上げる。記念日、記念碑、国旗などの記憶のツールがどのように利用され、いかなる歴史の現実が生み出されたのか活写することで、これまで論じられることの少なかったドミニオンを主語としたアイデンティティの構築とその変容が、比較的長期間にわたって検討される。(以下略)             評者:高田 実


『朝日新聞』「ニュースの本棚」2012.8.12より

第1次大戦から/帝国の総力戦が与えた衝撃
第2次世界大戦の終結から67年、そして2年後に第1次大戦の開戦百周年を迎えようとしている夏。「未完の戦争」として第2次大戦につながり、ロシア革命を生んだ第1次大戦への関心が国内外で高まっている。総力戦となったがゆえに近代世界のあり方を決定的に変え、「破局の20世紀」の発端となった第1次大戦。果たしてそれは、二つの大戦と冷戦を経た三つの戦後を迎え、しかし今なお「戦時」が絶えない現代世界に生きる私たちにいかなる問いを突きつけているのだろうか。・・・中略・・・
一国史を越えて
さらに、木畑の「帝国の総力戦」という問題提起をうけて、第1次大戦以後のオーストラリアとカナダにおける戦争記憶の再生産が、帝国的統合と国民国家的自立という二つの方向でいかに作用したのか、またそれがどのように現代の多文化主義につながったのかを動態的にとらえたのが、津田博司『戦争の記憶とイギリス帝国』である。           評者:山室信一
    朝日新聞2012.8.12
      朝日新聞 本棚のニュース 2012.8.12

KINOKUNIYA
書評空間BOOKLOG 2012年7月24日 評者 早瀬晋三
【著者紹介】
津田博司 つだひろし

1981年神戸生まれ。2010年大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、筑波大学人文社会系助教
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