研究書・論文 
十八世紀イギリスの都市空間を探る 十八世紀イギリスの
都市空間を探る

「都市ルネサンス」論再考


中野 忠・道重一郎・唐澤達之編


定価: 本体5000円+税
2012年5月刊
ISBN978-4-88708-403-2
A5 271頁

在庫あり
★長い18世紀の都市と都市化そのものをテーマとして書かれたわが国初の研究★
長い18世紀イギリスの都市化を、消費文化の開花など都市そのもののダイナミズムに注目しながら、豊富な史料を基に解明する、日英学術交流の成果!

*都市ルネサンスとは* 
「長い18世紀のイギリス都市を論ずる本書が直接の手掛りとしたのは、歴史家のピーター・ボーゼイ がこの時代の地方都市の発展を論じるにあたって用いた「都市ルネサンス」という概念である。 すでに四半世紀以上も前に提示されたこの用語を再活用するのは、一つには近年、新しい事例についての実証研究が追加されつつあることにもよるが、何よりもそれがこの時代の都市と都市化の個性的な側面を要約する表現であり、工業化に先立つ都市化を捉えるのに有益な概念であると考えるからである。」(本書「はしがき」から)
【内容紹介】
[略目次]
序論 都市史の過去と現在―イギリスの事例から・・・・・・・・P・J・コーフィールド
第1章 18世紀イギリス都市論の射程
        ―「都市ルネサンス」論再考・・・・・・・・・・・・・・・中野 忠
第2章 消費空間としての18世紀イギリス都市
        ―消費空間、社交空間と小売商業―・・・・・・・・道重一郎
第3章 18世紀ノリッジの都市自治体と基盤整備
        ―会計簿の分析を中心に―・・・・・・・・・・・・・・・唐澤達之
第4章 社交と都市ルネサンス
        ―キングス・リンの事例から―・・・・・・・・・・・・・・小西恵美
第5章 都市ルネサンス期における近世ウェストミンスター
        ―バージェス裁判所を中心に―・・・・・・・・・・・・・菅原秀二
第6章 18世紀ロンドンの支配権力の多元化・・・・・・・・・・・・坂巻 清
第7章 工業都市における都市ルネサンス
        ―ウォルヴァハンプトンにおける自治制度の展開、職業構造、消費―
           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山本千映/森本行人
第8章 都市ペナルティと都市ルネサンス
        ―18世紀から19世紀へ―・・・・・・・・・・・・・・・・・永島 剛
第9章 中世・近世イングランドの商業化
        ―都市史の視点―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・川名 洋
【書  評】

『史学雑誌』2013年11月 第122編第11号                     評者:岩間俊彦

本書は,イギリス都市史だけでなく,より広くイギリス史,西洋史,社会史,経済史の研究に対する問題提起の書である。また,研究史を摂取して資料分析の結果を示す研究成果の書でもある。・・・(略)・・・各章を時期・対象・記述内容から分類すると,はしがき,序論,1章,あとがきは,本書における問題提起や本書出版の経緯あるいは目的,研究史整理や見取り図の提示,今後の展望を担う。2〜6章は,18世紀のイギリス都市に関する事例研究である。2章は,消費という主題からロンドンや地方都市を検討しているのに対して,3,4章は地方都市の事例,5,6章はロンドンの事例を特定の観点から検討する。7,8章は,18/19世紀を対象にしており,前者は地方の産業都市の事例研究で,後者は,18世紀と19世紀の都市における疾病とその対応を検討している。9章は,中世から近世にわたる都市の経済社会の動向を整理している。なお,目次前には,1〜9章の要旨があり,読者が各章の内容を理解する際に便利である。
はしがきでは,都市ルネサンスという概念が,いわゆる「長い18世紀」のイギリスだけでなく,20世紀後半以降のイギリスにおいても一つの考察として有効であることを主張する。そして,中野は,都市ルネサンスという概念を基礎にして,18/19世紀イギリスの都市化について研究することは,現在にもつながる都市問題,現在の都市との継続と変化,そして,都市の景観を再考する上でも意義があることだと主張する。
(中略)
あとがきでは,本書の成立過程について,日本とイギリスの研究者間のつながりと都市化や長い18世紀という視座から解説する。道重は,1970年代から21世紀にかけてイギリス史の研究環境,例えば資料の電子化の進行や,研究手法が大きく変化したことを指摘して,外国史研究が二次資料に主として依拠する「史論」から史料にもとづく「歴史研究」へと発展することが不可欠であると主張する。
本書の研究史上の意義は,何よりも,日本におけるイギリスの都市ルネサンスに関する初の研究書ということである。都市ルネサンスという概念は,川北稔等の紹介により,既に日本の学界でも知られていたが,同概念を基礎にして一次資料の分析を行った研究は,あらわれていなかった。このように,イギリスと日本の学界の間にあった研究成果の溝を埋めた本書は,貴重な成果である。また,本書は,現在の近代イギリス都市史,社会史,経済史の資料分析の水準を示している。包括的な英語と日本語の文献目録,整えられた索引,そして,着実な一次資料の例示・分析・注記を通じて,史料への愛着とその緻密な考察の意味を示す好例でもあり,イギリス都市や社会の歴史に関心をもつ学部生,大学院生,研究者に有益な示唆を与えてくれる。しかしながら,本書では,執筆者各自が都市ルネサンスについて言及したり,同概念に関連づけながら考察を行っているが,都市ルネサンスという概念や事象について内在的批判が,本書全体で十分に行われたと判断することは,難しい。(以下略)
最後に,本書の書式や表記について記したい。本書では,各章の要旨・索引・包括的な文献目録をおくこと等から,初学者やイギリス都市史を専門としない読者の理解を助ける配慮がみられる。・・・(略)・・・本評で取り上げてきた都市ルネサンスに対する内在的批判,比較(都市)史と理論,資料の電子化の問題は,執筆者や評者だけが,取り組むべき課題だとは思えない。これらの問題について,本書の優れた資料分析の成果を参照しながら,都市史,イギリス史,西洋史,社会史,経済史に関わる多くの研究者が考察していくことを願いながら,本書評を終えたい。


社会経済史学 79-2 2013年8月 書評より                     評者:安元 稔

1989年に刊行されたピーター・ボーセイ(P.Borsay)の『イギリスの都市ルネサンス―地方都市における文化と社会1660‐1770年―』は,その後のイギリス都市史研究に少なからぬ影響を与えた。主として彼の問題提起に触発され,「長い一八世紀」におけるイギリス都市史の再検討を志した中野忠・道重一郎・唐澤達之氏を中心に2004年に組織された「長期18世紀イギリス社会経済史研究会」の成果がこの論文集である。
(略)第一章「一八世紀イギリス都市論の射程―「都市ルネサンス」論再考―」(中野忠)は,18世紀イギリス都市論,「都市ルネサンス」論の内容を概観したものである。全体を俯瞰した,多方面に目の行き届いた優れた概括である。特に興味深いのは,「都市ルネサンス」を表象する男性奉公人比率から「居住者レジャー都市」を検出したシュウォーツとストバートの論を紹介し,娯楽・奢侈的商品やサーヴィス,洗練,上品な生活態度の広がりだけではなく,「実用的な啓蒙主義」の提供の場としての都市の機能を指摘した点である。
第二章「消費空間としての一八世紀イギリス都市―消費空間,社交空間と小売商業―」(道重一郎)は,18世紀における消費者嗜好に焦点を当てて小売店舗商業の変化を追ったものである。(略)また,店舗を舞台に展開される社会的な関係の形成,余暇としての買い物も都市文化の大きな特質であった。この時代の市場が,後の時期に展開したであろう非個人的・非人格的な関係ではなく,顧客との親密な関係の上に築かれた個人的なものであったという指摘も重要である。
(・・・)第三章「一八世紀ノリッジの都市自治体と基盤整備」(唐澤達之)は,慈善信託の受託者として,また慈善的な事業を行う自発的結社への支援を通じて市民生活に大きく関わり,都市の制度的な基盤整備に貢献した都市自治体の活動を追ったものである。同時に都市財政支出の少なからぬ部分が,公共的な部門,市場・道路整備だけではなく,新ホールや楽団への支援,「都市ルネサンス」の内実を成す文化活動にも費やされていたという指摘は興味深い。
(以下各章紹介略)
現在の我が国の研究状況を考える時,本書が目指した課題の設定が新鮮であり、挑戦的である点は高く評価されるべきであろう。収められた論稿の多くは,近代イギリス都市史研究に新たな視覚と史実を提供するものとして有意義なものである。他方,この論文集によって新たな課題が提起されたように思われる。・・・(以下略)
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