研究書・論文 | |
前近代トルコの 地方名士 カラオスマンオウル家の研究 永田雄三著 定価: 本体7000円+税 2009年4月刊 ISBN978−4-88708-377−6 A5箱 329頁 在庫あり |
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★オスマン帝国近世の,在地社会の基本構造とその崩壊★ ★世界のトルコ史研究者の中で活躍を続ける著者のライフワーク完成★ 18〜19世紀初頭のオスマン・トルコ語文書を縦横に駆使して書かれた本書は、「宗教・民族」紛争にゆれる現代「中東問題」の歴史的理解へ示唆を与えると共に、トルコを中心に、中東・バルカンの「地方名士」(アーヤーン)に対する具体的で鮮明なイメージを提供。同時に日本の豪農、中国の郷紳、そしてイギリスのジェントリーなどとの「比較ジェントリー論」に向けての問題提起を試みる書でもある |
【略目次】 |
序 論 アーヤーンの勃興と歴史的役割 アーヤーンに関する研究動向 カラオスマンオウル家に関する従来の研究 第1章 “場”の構造 第2章 カラオスマンオウル家小史(中央権力と地方名家) 第3章 地方名士の富と権力の基盤(1)徴税請負 第4章 地方名士の富と権力の基盤(2)チフトリキ経営 第5章 カラオスマンオウル家のワクフ活動―冨の地域への還元― 第6章 一族と郎党(ハウスホールド) 終章 「アーヤーン時代」の終焉 おわりに ―「比較ジェントリー論」に向けて― 【研究史上における位置づけ】 アーヤーンの富と力の源泉を徴税請負に求める見方が世界的に有力であるが,著者は代表的アーヤーン一族カラオスマンオウル家の文書に取り組み,「アーヤーンの力の源泉はそうした単一の要素に帰せられるものではなく,徴税請負,チフトリキ(大農場),そしてワクフ活動といった複合的な営みの所産である」と規定する |
【書 評】 |
『歴史学研究』No.868 2010.7 書評より 本書において分析の対象となるカラオスマンオウル家(以下,本書の記載に倣ってK家と略記する)とは,オスマン帝国時代の後半,17世紀末から18世紀にかけて西アナトリアで台頭し,18世紀末から19世紀初頭に最盛期を迎え,その後曲折を経ながらも今日まで名望を保っているアーヤーン(地方名士)の一族である。著者の永田雄三氏は,1970年代以来長期にわたり,現地の文書館に所蔵されたシャリーア法廷帳簿や,徴税請負帳簿,財産没収帳簿,ワクフ文書などの一次史料を用いて,K家の人々の活動・事績を,政治・経済・公共福祉などさまざまな側面から考察してきた。氏のK家研究の成果をまとめた著書は,1997年にトルコ語で出版されており,本書はそれを基礎として新史料や新論点を付け加え,全面的に改稿したものであるという。 本書は,K家を扱った事例研究ではあるが,著者の問題関心はむろん,この一事例の内部に止まるものではない。著者の明快な研究史整理によれば,近年のアーヤーン研究は,アーヤーンの富の源泉は徴税請負か大土地所有か,経営は商業的か自給的か,といった経済基盤論的な議論の枠組を脱して,帝国の中央と地方との関係を新たな視点から捉えなおそうとするオスマン帝国史研究の一環として展開されているという。ただ著者は,オスマン帝国の支配構造の独自のかたちを巨視的に解明しようとするこうした新動向に賛意を表しつつも,同時に,地域による社会経済的条件の相違を指摘し,地域に根ざした具体的なイメージを喚起できるような実証研究を基礎としてこの大問題に接近することの必要性を強調するのである。 さらに著者の問題関心は,オスマン帝国研究の範囲に止まることなく,「比較ジェントリー論」すなわち,一国史的な視野を超えて世界史的な共時性のなかで,アーヤーンをイギリスのジェントリー,中国の郷紳,日本の豪農などと比較しようとする視点へと展開する。このような関心はすでに,1980年代の著者の論考(「歴史のなかのアーヤーン」『社会史研究』7,1986年)でも披瀝されていたが,本書ではより明確に,「比較ジェントリ―論」に向けての提言がなされている。オスマン帝国史には門外漢の中国史専門の評者が書評を依頼されたのも,この提言に関わってのことであると思われるので,トルコ史に関する専門的な問題については適任者が別に書評されることを期待するとして,本書評ではもっぱら同時代的比較の可能性について未熟ながら私見を述べさせていただくこととしたい。(以下略) (評者:岸本美緒) |
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