研究書・論文 
中世歴史人類学試論 中世歴史人類学試論
身体・祭儀・夢幻・時間

ジャン・クロード・シュミット著
渡邊昌美訳


定価: 本体7000円+税
2008年6月刊
ISBN978−4-88708-363-9
A5箱 400頁

在庫あり

第44回日本翻訳出版文化賞
受賞
アナール派第4世代の第一人者シュミットが過去20年の研究を世に問う中世の民衆への関心から「歴史人類学」を提唱する歴史家の軌跡!
中世の民衆への関心から“歴史人類学”を提唱するシュミットは、アナール派第4世代の第一人者。この論集(1981〜2000年)では、奇習シャリヴァリや、今まで歴史家が扱いきれなかった膨大な聖者文学などへのするどい解釈が注目される! 論集であることで、かえって新鮮な問題意識と方法論が読者を刺激するはず!
◆図版も多数,図像学的手法も駆使
◆西洋史研究者・学生の必読書。また、M.ブロックの『王の奇跡』とは違った切り口で、
  日本史研究者・民俗学・宗教学の研究者も必見!
◆訳者は、カタリ派研究の第一人者
  主著『異端カタリ派の研究』(岩波書店)   
  訳書 ル・ロワ・ラデュリ『モンタイユー』,M.ブロック『王の奇跡』(共に刀水書房刊)
【主要目次】
第1部 信仰と祭儀
 第1章  中世宗教史は成立可能か
 第2章  聖の観念と中世キリスト教への適用
 第3章  西欧中世における神話の問題
 第4章  中世の信仰
 第5章  信経の良き効用
第2部 民俗伝統の知的文化
 第6章  中世文化における民俗伝統
 第7章  「若衆」と木馬の舞踏
 第8章  取り込まれた言葉(採用と変形)
 第9章  仮面、悪魔、死者
第3部 主体とその夢
 第10章 「個人の発見」は歴史のフィクションか?
 第11章 ギベール・ド・ノジャンの夢
 第12章 夢の主体
第4部 身体と時間
 第13章 病む体、憑かれた体
 第14章 キリスト教における人体
 第15章 12世紀における時間、民俗、政治
 第16章 待望から彷こうへ
 第17章 未来の観念
【書 評】
『週刊読書人』 2008.9.12 から
評者:蔵持不三也

「本書は、アナール派の第四世代を代表する著者が、1981年から2000年にかけて書いた論文をまとめたものである。第一部「信仰と祭儀」、第二部「民俗伝統と知的文化」、第三部「主体とその夢」、第四部「身体と時間」二配置された17本の論稿が、解題に当る「まえがき」続いて、闊達なシュミット流歴史人類学の一端を伝えてくれる。尋常ならざる博引傍証と透徹した考察....。これほどの興奮を与えてくれる本に、評者は今までどれほど出会えただろうか。(中略)思えば、ルロワ=ラデュリやレヴィ=ストロースが歴史学と文化人類学の協同を提唱してからすでに半世紀がたつ。本書はその提言を見事に実現した論集ともいえるが、もうひとつの功績は、じつは内省期を迎えて久しい文化人類学の新たな可能性をも端的に提示しているところにある。紛うかたなき力作である。 」
第44回日本翻訳出版文化賞受賞!

〔日本翻訳家協会賞 選評より〕
原著者はフランス歴史学界の主流、アナール派第四世代のリーダーで中世民俗研究家。アナール派は1929年創刊の「社会経済史年報」を拠点とする歴史学者が提唱したのが由来。従来の歴史は社会の表層に目を向けるのみで、出典の明らかな物語とフィクションの区別さえつかず、新事実の発見で物語を並べ直すだけだと主張する。著者は人間生活に目を向け、中世の教会、農民、都市文化など多極社会の神話、進行、祭儀、舞踏、夢や病気など口承や文書を通して世俗文化の誕生、人間理性の自律過程を探る。こうした問題意識には欧州特有の背景があるとはいえ、わが国でも大いに参考になる。この本はいわば同派の勝利宣言書。同学派の研究紹介に一貫努力されている出版業績も評価された。 
                                       〔審査委員長 平野 裕〕


受賞式での弊社社長挨拶

                刀水書房とアナール派の出会い

本日は、第44回日本翻訳出版文化賞を賜りまして、まことにありがとうございました。
ちょうど、30年前の1978年10月20日、この神保町の片隅で、私は小さな歴史専門の出版社を始めました。その1年前、1977年11月16日に、フランスで刊行されて(1974年)間もない3部作Faire de L’Histoire の翻訳権を取得しました。このル・ゴフとノラの編集になる、アナール派歴史方法論の論集の名を知ったのは、木村尚三郎先生が(多分東大教養の雑誌に)お書きになった紹介を読んだときです。さっそく木村先生に相談して、(未だ発足していない出版社としては莫大な費用を出したのですが)、近く始める私の出版社の企画と決めた訳です。私は、歴史の本筋は民衆の生活や社会全般にあると思っています。それで政治史より社会史の本を出していこうと思っていたのです。これが、刀水書房とアナール派との出会いです。残念ながら、邦題を『歴史の作法』と名付けていたこのFaire de L’Histoire の出版は夢で終わりました。翻訳をお願いしていた先生方がお忙し過ぎたためでした。
とは申せ、出発2年目、最初の3点を刊行した頃にはル・ロワ・ラデュリの歴史人類学の代表作『モンタイユー』の翻訳権を取得する事が出来ました。ご存知の通り、本書が1975年フランスで出版された折には、歴史専門書でありながら文学のゴンクール賞を受賞、さらには、映画にまでなりました。『モンタイユー』は訳者の井上幸治先生が訳業途中でお亡くなりになり、大分時間がかかりましたが、共訳者の渡邊昌美先生のお力で1991年、刊行する事が出来ました。この7年後の1998年秋には、マルク・ブロックの「奇跡を行う王たち」を渡邊昌美先生・井上泰男先生のお力で刊行する事が出来ました。邦題は『王の奇跡』と致しました。ブロックの仕事の中で特に人類学との接点が注目されている本書の翻訳が実現できましたことは、民俗学・人類学を仕事の核の一つに考えておりました私にとって、本当に嬉しく、訳者の先生方にはどんなに感謝してもしつくせない思いでおります。
そして、本日、賞を頂いた『中世歴史人類学試論−身体・祭儀・夢幻・時間』は、アナール派第4世代の先頭を走り、早くから“歴史人類学”を提唱していたジャン・クロード・シュミットの過去20年にわたる論集です。本書の訳出を進めて下さった渡邊昌美先生のお蔭で、この受賞は叶いました。本書は『モンタイユー』『王の奇跡』と同じように、適切な“漢語”を駆使した揺らぎのない名訳を渡邊先生から頂戴しております。本書は西洋史のみならず、日本史中世の研究者の方々にも是非お読み頂きたいと願っております事を申し添えます。
本日はまことにありがとうございました
                              2008年10月24日 刀水書房 桑原迪也 

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